35

おさかな情報 No.35  2006年 7月


2006年度 第2回展示テーマ   
               
魚の鱗

      マダイ の鱗
              
               シモフリカレイの鱗

        
目      次
   はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
    魚の鱗とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
    「ハリセンボン」針のような鱗を立てて身を守る ・ 3
    築地市場に入荷する魚の鱗 ・・・・・・・・・・・・ 5
    築地市場おさかなニュース
      「築地市場の甲殻類U  クルマエビの仲間」・・ 11
    次回の展示テーマ ・・・・・・・・・・・・・・・ 12


 
        
   

  
はじめに

 魚にはマイワシやコイのように体が滑らかなものと、マダイのように触ると 少しチクチクするものがあります。これは鱗(うろこ)の違いによります。麟の有無をはじめ、鱗の形や構造にはふつう種(またはグループ)ごとに特徴があります。さらに、ヤツメウナギ類のように鱗をもたないものもいます。

 展示では、食用魚を中心に様々な魚類の鱗を標本とパネルで紹介します

      


   魚の鱗とは

 魚は体を守るために、ふつう体表に硬い鱗(うろこ)をもっています。鱗は皮膚の表皮と真皮の間または真皮の中にあって、骨やエナメル質・象牙質(ぞうげしつ)から構成されています。 鱗はその構造から、次の3種類に分けられます。

楯鱗(じゅんりん) 
 軟骨魚類(サメ・エイ類) 骨・エナメル質・象牙質から構成されています。成長とともに数が増えます。構造と発生が歯と全く同じなので、皮歯(ひし)ともいわれます 。

硬鱗(こうりん)  
 硬骨魚類の一部(シーラカンス類、ガー類など) 骨・エナメル質・象牙質から構成されています。硬骨魚類の鱗は魚体の成長とともに個々の鱗も成長して大きくなり、鱗の数は増加しないで種類ごとに変異の幅が一定です。

骨鱗(こつりん) 
 ほとんどの硬骨魚類(ニシン・ウナギからヒラメまで) 骨のみから構成されています。

骨鱗には円鱗(えんりん)と櫛鱗(しつりん)がありますが、基本構造は同じです。
円鱗は円形で表面が滑らかです。 マイワシ、サケ、アユ、コイ、メダカなど。
櫛鱗は後部の露出部に小さな棘を備えています。スズキ、マダイ、クロウシノシタなど。


       
        上野・坂本(2005)より

○変わった鱗をもつ魚
 タツノオトシゴやハコフグなどの硬い甲羅のような構造は鱗の変形したものと考えられています。
 マアジやシマアジなど多くのアジ類にみられるゼイゴ(あるいはゼンゴ)も鱗の変形したもので、稜鱗(りようりん)と呼ばれます。コノシロやサッパな どの腹中線上の、鋭い棘をもつ鱗も稜鱗です。

○鱗をもたない魚
 ヤツメウナギ類、ヨリトフグなどは全く鱗をもっていません。

○鱗から年齢が読み取れます
  円鱗と櫛鱗の表面には鱗紋(りんもん)呼ばれる模様があります。これには成長の様子も刻み込まれているので、しばしば年齢の推定にも使用されます。

○鱗は分類に役立ちます
 多くの場合、鱗は魚の種類によってその形や数などに違いがあるため、魚種を区別にするのに役立ちます。

   

隆起線:骨質層の表面が鋭く隆起したもの。
 成長帯:成長がよい時期に形成された部分で、隆起線の間隔が広い。
 休止帯:成長が悪い時期に形成された部分で、隆起線の間隔は狭い。
  (休止帯は多くの魚類で年周期(1年に1回)をもって形成されるので、年輪ともいわれます)。
溝条(こうじょう):中心から放射状に、あるいは前後上下の方向に走る細い溝。
溝条の部分には骨質層がなく、鱗は溝条に沿って曲がりやすくなっています。

参考資料
後藤仁敏. 1993.魚の身を包む装置 粘液と鱗. 週問朝日百科動物たちの地球 86. 朝日新聞, 東京. 岩井 保. 1985.水産脊椎動物U魚類. 恒星社厚生閣, 東京. 上野輝彌・坂本-男.2005.新版魚の分類の図鑑.東海大学出版会,東京.


                        

  ハリセンボン
棘のような鱗を立てて身を守る

  ハリセンボンを含むフグ目魚類の鱗は魚類全体から見てもかなり変わっています。フグ類やハリセンボンなどのような棘状(棘鱗)、ハコフグのような板状など様々に変形しています。なかにはヨリトフグなどのように 鱗をもたない種類もいます。
 ハリセンボンの棘は何のためにあるのでしようか。よく知られているように、敵から身を守るためです。敵に襲われそうだと判断した場合、フグ 科の魚と同じように水を飲んで体を膨らませ、ふだんは倒れている棘を立てて、棘の球のようにします。胃に特殊な弁があり、この弁を開閉することによって水(空気でも膨らむ)を胃のなかに吸い込んで体を膨らませます。棘で食べられにくくなることだけでなく、膨らむことで驚かせているのかもしれません。このようなわけで、ほとんど襲われることはありませんが、これは成魚のことで若魚は事情が異なります。こちらはマグロ類、シイラ類、マカジキ類のような大形の海洋魚の重要な餌になっています。

 ハリセンボンの若魚は集団で暖流に乗って、沿岸に押し寄せ、定置網などに被害を及ぼすこともあります。
 ところで、ハリセンボンの麟はいくつあるのでしょうか。
 「針千本」とはいうものの、それほどはありそうもありません。
 「原色日本海魚類図鑑」 (1990)を出版した津田氏によれば、1948-1987年に富山湾産の673個体の棘を数えた結果、平均353本であったといいます。

 「フグは何のために腹を膨らますか」、興味のある問題です。稚魚の研究で有名な内田恵太郎博士は『稚魚を求めて』 (1964)のなかで、次のように、麟の発達との関係で答えています。
「フグ類の腹を膨らます習性は、口からの噴水をいろいろな目的に利用することからはじまったのではないか。フグ科の魚が水をロから吹き出して、海底の砂を吹き飛ばし、餌を探すことはよく知られている。このような習性は、コイをはじめ多くの魚で見られる。これらの事実は特別な器官がなくても、口から水を吹くことは可能であることを示している。これは、フグ目の祖先に近いと考えられているカワハギ科の魚でも観察されている。しかし、フグ類ではその習性が特に発達して、特別の器官として胃の特殊な構造ができたのではないか」と内田博士は考えています。
「フグ科とハリセンボン科では、噴水利用の習性の発達とともに、胃を一時的の貯水袋に利用するようになり、そのことが胃の一部分に特殊な構造の発達を促したのではないか。腹を膨らます能力が著しくなるに従い 体表面の棘の発達とともに、自衛の作用もかねるようになったのではないか。ハリセンボンはその典型である。
 トラフグやマフグなどのように、棘の微少な、または全くないふつうのフグ類の腹を膨らます習性は、退化の傾向を示しているもので、自衛の効果はほとんどなくなったのではないか。ふつうのフグ類はハリセンボンにくらべると腹を膨らます能力は劣るものの、稚仔時代のほうがよく膨らみ、棘も比較的よく発達している。」
 このように、内田博士は「フグの腹を膨らます習性の意味は、噴水説と、棘の存在を条件とした自衛説とで一応説明できるのではないか」と考えています。
「なぜ棘の退化と腹を膨らます習性の退化とが平行して起こったかはよくわからない」が、フグ毒の形成となにか関係があるのではないかと想像しています。確かに、ほとんどのフグ科魚類は、フグ毒(テトロドトキシ ン)を卵巣・精巣・肝臓などの内蔵や時に筋肉中にも持っていますが、ハリセンボン科魚類は持っていません。
フグ目のなかで、胃に特殊な構造を持っているものはフグ科とハリセンボン科だけですが、祖先的とみなされているカワハギ科の魚では胃の腹側の壁がやや肥厚しており、前駆的な構造と考えられています。


   
棘の形
 
   1.カワハギ(カワハギ科)全長185mm、体側棘鱗、棘長0.6mm
  2.トラフグ(フグ科)全長370mm、背面棘鱗、棘長1.8mm
  3.ハリセンボン(ハリセンボン科)全長140mm、腹面棘鱗、棘長10mm

                         藤田(1962)より


参考資料
藤田矢郎1962. 日本産主要フグ類の生活史と養殖に関する研究. 長崎県水産試験場論文集 第2集.  松浦啓一. 1998. フグ目. 中坊徴次・望月堅二編 日本産動物百科6 魚類.平凡社, 東京.  内田恵太郎 1964. 稚魚を求めて. 岩波書店, 東京.




    
築地市場に入荷する魚の鱗

 鮮魚店やスーパーなどでは、鱗がついたままのものや、鱗を落としてあるものなどさまざまな形態で魚が売られています。
 一般に、大型になる魚や海外から輸入される魚は、丸ごと売られていることはなく、その鱗を見る機会も多くありません。また、イワシ類やアジ類、サンマなどは鱗が取れやすく、店先に並ぶときには鱗がなくなっている魚もあります。そのため、もともとその魚に鱗があったのかどうかわからないこともあります。
 ここでは、築地市場に入荷する魚を中心に、一般に食用とされている魚の鱗を紹介します。


                 鱗の種類と主な食用魚
----------------------------------------------------------------------
  鱗の種類            主な食用魚
----------------------------------------------------------------------
 円鱗
    アカマンボウ、アユイカナゴ、ウミタナコ、カタクチイワシ、 コイ、コノシロ、サケ、サヨリ、サンマ、シイラ、シシャモ、 スケトウダラ、ドジョウ、トビウオ、ニシン、フナ、ブリ、 ホウボウ、マアジ、マイワシ、マカジキ、マダラ、マナガツ オ、メイタガレイ、ヨロイイタチウオ、ワカサギ
 櫛鱗
    アイナメ、アオダイ、アオメエソ、アカアマダイ、アカムツ、ア ラ、イシダイ、カサゴ、カツオ、ギンポ、キンメダイ、クロソ イ、クロマグロ、スズキ、タカベ、ハマダイ、ヒメジ、ホッケ、 ポラ、マサバ、マダイ、マハゼ、マハタ、メジナ、メバル
 円鱗・櫛鱗混在
     シマイサキ、ヒラメ、マコガレイ、ムツ
 特殊な鱗
     カワハギ、トラフグ、ニザダイ、ハコフグ
 退化的
     ウナギ、ゲンゲ、ネズミゴチ、マアナゴ
 鱗のない魚
     アカヤガラ、アンコウ、イシガレイ、ナマズ、タチウオ、メ カジキ、ヤツメウナギ
----------------------------------------------------------------------


  各魚の鱗 (注意 PDFファイル クリックして開いて下さい。)


(このファイルを開くのにPDF閲覧ソフトが必要です。)
(こちらから無償にてアクロバットリーダー(バージョン7.0)というソフトウェアをダウンロードすることができますので、手順に従いダウンロードしてからご覧ください。)



 築地市場おさかなニュース

築地市場の甲殻類 2−クルマエビの仲間

 築地市場にはさまざまなエビやカニが入荷します。今回はクルマエビの仲間を紹介します。
天ぷらやフライ、惣菜、寿司種など私たちが日常食べているエビのほとんどはクルマエビ科のエビです。中〜大型で味が良く、漁獲量も多いため水産上重要です。
 クルマエビ科のエビは世界で170種、日本からは42種が知られています。すべて暖海性で、浅海からやや深い海底にすみます。若いうちは汽水域に入るものもあります。すべての種類は雌雄異体で、雄の第5歩脚 (最後方の脚)の間には交接器があります。ボタンエビやイセエビのように尾部の腹側に卵を抱くことはなく、体内で成熟した卵を遊泳しながら水中に散布します。
 旬は春から初夏とされますが、1年を通して味は大きく変わりません。底曳網や刺網で漁獲されるほか、養殖もさかんです。生鮮または冷凍で周年流通し、クルマエビなどは生きたまま売られていることもあります。


  
築地市場に入荷したクルマエビ類
 
      ○…ふつう △…少ない ×…まれ

------------------------------------------------------------------------
×アカエビ                 瀬戸内海
〇ウシエビ    ぶらっくたいが-   東南アジア
△クマエビ    あしあか        九州・浜名湖
〇クルマエビ   くるまえび・さいまき 九州・沖縄・オーストラリア
△コウライエビ  たいしょうえび    中国
×サケエビ                 愛知
×サルエビ                 愛知
○シバエビ    しばえび        東京湾
〇テンジクエビ  ぱなな        東南アジア・中東
×トラエビ                  大分
×フトミゾエビ   しんちゅうえび   九州
×ヨシエビ                 九州
△えんでば-                オーストラリア
〇お-すとらりあたいが-         オーストラリア
○ばなめい                 北米・中国
×ぴんくしゅりんぷ            インド
×ぶらうんしゅりんぷ          北米
×ぶる-しゅりんぷ            ニューカレドニア

-----------------------------------------------------------------------


ウシエビ

 本州中部からオーストラリア、南アフリカまでの汽水域に分布します。クルマエビ類のうち最大で、体長33 cmを超えます。成長が速く淡水でも飼えるので、東南アジアをはじめ各地で大規模に養殖されています。
「ブラックタイガー」の名がよく使われています。国内で販売されているもののほとんどは、輸入品です。



クルマエビ

 宮城県からオーストラリア、南アフリカまでの水深90m以浅の砂泥底に分布します。体長30cmになります。九州や沖縄のほか、台湾やオーストラリアで養殖されたものが入荷します。天然物の漁獲は少なく、各地で放流も行なわれています。



シバエビ

 東京から台湾に分布し、内湾の水深10〜30mの砂泥底にすみます。体長15cmになります。底曳網で漁獲され、主に天ぷらやエビおぼろに利用されます。


コウライエビ

 東シナ海と黄海の水深90〜180mに分布します。 体長18cmになります。
「大正えび」とも呼ばれ、以前は天ぷら用などに大量に入荷しましたが、近年は減っています。



輸入のクルマエビ類
                   
 クルマエビ科のエビは世界で約85万トン漁獲されています。主な生産地域は中国、東南アジア、アメリカ、西アフリカなどです。養殖は約129万トンで、主な生産地域は東南アジア、インド、中南米、オーストラリアです。
 種類ではウシエビ、コウライエビ、テンジクエビ、ヨシエビ類、ホワイトシュリンプなどが多くなっています。このうち日本へは東南アジアからウシエビ、テンジクエビ、中国からコウライエビ、オーストラリアからタイガーシュリンプ、エンデバーなど約21万トンが輸入されています。



参考資料
水産庁加工流通課 .2006. 水産貿易統計 平成16年.  多紀保彦・奥谷喬司・近江卓 (監). 1999. 食材魚貝大百科 第1巻 エビ・カニ類+魚 .平凡社, 東京.  三宅貞祥. 1982. 原色日本大型甲殻類図鑑 (I). 保育社, 大阪.  FAO.2004.FAO Yearbook.Fishry Statistics, Capture Proouction. FAO Fshery Series,(66). FAO.2004.FAO Yearbook.Fishry Statistics, Aquaculture Proouction. FAO Fshery Series,(67). Dore.I&C. Frimodt.1987.An illustrated guide to shrimp of the world. Osprey Books,Huntington.



 
次回の展示テーマ
 
    
切り身の魚 2006年10月1日〜12月30日 {遅れています}

 鮮魚店やスーパー・デパートの魚売り場には、数多くの切り身が生鮮のままで、あるいは粕漬や味噌漬などに加工されて並んでいます。なかには、全体の姿ではなく、切り身でしか見ることのできない魚も多くあります。 展示では、切り身として店頭に並ぶことの多い魚を標本とパネルで紹介します。(標本はなくなるかも知れません。)


      −12−