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おさかな情報 No.15    2001年7月


2001年度第2回展示テーマ  「魚の名前を調べる」

          目   次
★ はじめに      
★ 学名・標準和名・地方名.........2
★ 名前の由来 一クロマグロー(付)日本産マグロ類の和名の返還...3        
★ 「図鑑によって学名が違うのは何故か(付)和名の効用」........4         
★ 築地市場の魚の名前を調べる...6                              
★ 築地市場おさかなニュース  「夏ガキ」 .............10           
★ 次回の展示テーマ  



 はじめに
  現在、世界中で約24000種類、日本で約3900種類の魚が知られています。日本だけでなく世界各地から魚が入荷する築地魚市場では、季節によって種類は変わりますが、毎日100種類以上の魚が店頭に並びます。
  市場で働いている人たちは長い間の経験によってこれらの魚を区別していますが、時には魚に詳しい市場の人でも名前のわからない魚が入荷することがあります。
  そういうときには、当資料館では市場の人たちと協力して魚の名前を調べます。1年に1回見られるかどうかというような魚、ほかの魚に混じっていた魚、冷凍のフィレで輸入されたような魚まで数えると、この4年間でおよそ800種類の魚が市場の店頭に並びました。ところで、誰でも知っているような魚でも、市場の人や魚屋さんが使っている名前と図鑑で調べた名前が違っていたという経験を持っている人は多いと思います。
  また、自分の生まれた地方での名前が、ほかの地方の人に全く通じないという経験のある人もいると思います。これは、多くの場合、魚の種類が違っていたのではなく、間じ魚が何種類もの名前を持っていることが原因です。
  図鑑ではふつう標準和名(と学名)が使われ、市場には市場での名前があり、さらに地方にはその地方独特の名前があるからです。
  すなわち、標準和名と市場名と地方名が同じという魚はほとんどいないからです。
  日本各地で漁獲され、食用や観賞用として日本人とかかわりの長い魚は一般にたくさんの名前を持っています。
  展示では、名前のわからない魚に出会ったときの名前の調べ方のほか、名前の種類(学名・標準和名,地方名など)やその由来などを紹介します。


マグロ

      クロマグロ「梅園魚品図正」(毛利梅園、1832−36)より

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学名・和名・地方名
 ここでは、
クロマグロを例に説明します。
    Thunnus thynnus(Linnaeus,1758) 
クロマグロ
学名*: (世界共通の)学術的名称。ラテン語アルファベットで書きます。
* 学名以外の名称はすべて通俗名といいます(「国際動物命名規約第4版」日本語版)。  Thunnus thynnus が学名です。種(クロマグロという魚)の学名は属名 Thunnus(マグロ属のこと)+種小名 thynnus で書き表します。
「 Linnaeus,1758 」は Linnaeus(リネー)(著者名)が1758年(学名が公表された日付)に命名したことを、そしてそこに( )が付いているのは後に属名が変更されたことを示しています。
クロマグロはLinnaeus によって Scomber thynnus すなわち Scomber(サバ属)の1種として命名されましたが、現在はサウスが1845年に創設した Thunnus (マグロ属)に移されています。

概準和名: 和名といわれることもあります。通俗名の1つで、日本語の名称のことですが、日本では学術的名称のように扱われています。論文・図鑑や水族館・博物館などで使用されているものです。
クロマグロが標準和名です。
 日本の魚類学の父といわれる田中茂穂(1878一1974)は、1913年にジョルダンやスナイダーとともに出版した「日本産魚類目録」(1230種)で、ほとんどすべての日本産魚類に和名を与えました。
 和名について田中は後に(1915)、「...学名が時に変わるとすると(Box参照)、日本のように魚との関係が密接であるところでは俗名(和名)を付けて、これを変えないようにすると便利と思う…」と述べています。
 これが、魚類における標準和名の概念の始まりと考えられています。
 ところで、田中はこの時、まず自分の意見を述べるとして「なるべく東京市場(当時は築地ではなく日本橋)の用言(名前)に従うこと…」などと書いています。(淡水魚については、琵琶潮周辺の名前が和名として採用されています)

地方名: 通俗名の1つで、一地方でしか通用しない名称。この地方とは、小さい漁村から国や広い海域までを指します。この意味では標準和名も(日本という)地方の名称(地方名)の1つです。上に記したように、日本人とかかわりの長い魚の標準和名の多くのものは、地方名、特に江戸(東京)地方の名称から選ばれています。
 日本各地に生息し、食用や観賞用としてなじみの深い魚には一般にたくさんの地方名があります。
 たとえば、メダカには5000以上の地方名があるといわれています。
 外国の代表的な地方名(岩井ほか(1965)より):Bluefin tuna(カナダ・米国);Tunny(英国アイルランド・南アフリカ);Thon rouge(ベルギー・フランス);Roter Thun(ドイツ);Atun rojo(スペイン);Atun cimarron(チリ);Atun de aletas atzules(メキシコ);Atum(ポルトガル);Tonno(オラシダ);Tonno(イタリア);Tonnos(ギリシャ);Tunfisk(デンマーク);Thonfisk(スウェーデン);Tonnikala(フィンラシド);Makrellstφerje(ノルウェー);Tunczyk(ボーランド);Cremisi baliki(トルコ);TyHeц(ロシア)

 日本の地方名(「日本産魚名大辞典」(1981)より抜粋):イモシビ(宮崎,愛媛)、オオマグロ(東京〉、クロシビ(静岡県静浦・福島県小名浜)、クロマグロ(神奈川県江ノ島)、ゴンダ(富城・岩手)、シビ(東北地方・静岡・富山・熊本・山口など)、ホンシピ(和歌山・愛知)、ホンマグロ(東京)、マグロ(高知・東京・和歌山・新潟・福岡など)、マグロシビ(和歌山・鹿児島・東京・神奈川・静岡など)、メジ〈東京・神奈川・静岡,陸前地方など)、メジカ(静浦)、ヨコ(高知・鹿児島)、ヨコワ(静岡・和歌山・兵庫県明石・高知・山口・福岡など)

 市場名:地方名と同じように、ある市場で使われている名称。
 築地魚市場では、クロマグロマグロホンマグロと呼ばれています。
 日本各地の市場でも同じように呼ばれています。

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名前の由来一クロマグロ 
       (付)日本産マグロ類(5種)の和名の返還

 学名・標準和名・地方名など魚の名前にはそれぞれ由来があります。 クロマグロの場合、次のような由来があります。
学名: Thunnus(トウンヌス)と thynnus(テユンヌス)はいずれもギリシヤ語の thynnos(マグロ)(Thyno 一から由来、“突進する”という意味)から。“速く泳ぐ魚(マグロ)”ということです。

標準和名: 古文書を調べると、「マグロ」という名前は江戸時代の前期に初めて登場します。
それまでマグロ類(特にキハダ)は奈良時代よりシビ(語源は、「シ」宍(シシ、獣肉)「ミ」(魚介)と考えられています)と呼ばれていました。
  マグロの語源は、「肉が赤黒い」からなどと考えられています(おさかな情報NQ9参照)。
  近代になると、クロマグロはマグロと呼ばれることが一般的になりました。しかし、マグロがキハダやメバチなどのマグロ類の総称とされる場合があるので、混乱を避けるため、クロマグロが(標準)和名として提唱されました(岩井ほか、1965)。
  この時、「クロ(黒)マグロ」にした理由は述べられていませんが、おそらくクロマグロの背がほかのマグロ類に比べてやや青黒いためと思われます。

地方名: たとえば、「メジカ」の由来:静岡県静浦地方の名称です。
 江戸時代初期の文書に現れます。その語源については、眼のまわりの肉が鹿の肉のようにうまいからメジカ(目鹿)という説や、眼が鼻先に近いからメヂカ(自近)という説があります。
 関東を中心によく使われる「メジ」(若いクロマグロを指す)はメジカから転じたものでしようか。


         日本産マグロ類(5種)の和名の変遷
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文献又は著者 年 クロマグロ        キハダ       メバチ    ビンナガ   コシナガ
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古事記  712
〜             一一一一一一一一 シビ ------------------------------------

日葡辞書 1603

本朝食鑑 1697  マグロ・メジカなど    シピ

魚鑑    1831  マグロ・メシカなど   キハダ・シピなど  メバチ   ビンナガ

松原新之助1880  シピ(マグロ・クロシピ) キハダ〈ハツなど) メバチ    −       −

ジョルダン他 1913 マグロ・シピ・ハツ   キワダ         ー    ビンナガ    −

岸上鎌吉 1915  クロシビ         キハダ        メバチ   トンポシピ コシナガ

岡田ほか 1935  マグロ          キハダ        メパチ   ビンナガ     −

田中・阿部1955   マグロ            キワダ         メバチ   ビンナガ

松原喜代松1955  マグロ          キハダ        メバチ   ビンナガ

松原喜代松1963  マグロ          キハダ        メバチ   ビンナガ  コシナガ

 
           〈クロマグロ・クロシピ・ホンマグロ)
河部宗明 1963  マグロ           キワダ        メバチ   ビンナガ

岩井ほか 1965  クロマグロ        キハダ        メバチ   ビンナガ  コシナガ

合 明  1975  クロマグロ(マグロ)   キハダ        メバチ   ビンナカ
日本魚類学会1981クロマグロ        キハダ        メバチ   ビンナカ  コシナガ

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キハダ:   もとは黄肌(きはだ)ではなく黄鰭(きはた)。第二背鰭と臀鰭が大きく黄色になるから。

メバチ:   眼が大きいから。

ビンナガ: 費長のこと。頭の側面の髪、すなわち胸鰭が長いから。

コシナガ: 体の後半部がほかのマグロ類に比べてほっそりしているからと思われます。

 これら5種類のほかに、北大西洋西岸に
タイセイヨウマグロ、南太平洋にはミナミマグロ(インドマグロ・ゴウシュウマグロと呼ぶこともあります)が分布しています(詳しくは、おさかな情報No.9参照)。

参考資料
Conette,B.B.&C.E.Nauen.1983.FAOSpecies Catalogue,Vol.2.Scombrids of world.FAO Fish.Synop、、(125)2. 岩井 保・中村 泉・松原喜代松.1965.マグロ類の分類学的研究.京都大学みさき臨海実験所特別報告,(2):1−51内田恵太郎.1987.さかな異名抄.朝日新聞社.日本魚類学会.2000.魚の和名を考える一差別的名称をどうするか一.日本魚類学会シンポジゥム要旨.

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図鑑によって学名が違うのは何故か(付)和名の効用
  少し前の図鑑を見ると、ニジマス(海に下るものはスチールヘッドと呼ばれます)の名は Salmo gairdneri  となっていますが、景近の図鑑では Oncorhynchus mykiss  と書いてあります。何故、図鑑によって学名が違うのでしょうか。
  これは、最近の研究で、カムチヤッカ半島周辺に分布するカムチャッカントラウト Salmo mykiss と北アメリカ沿岸に分布するニジマス Salmo gairdnerl  が同じ魚(種)であることがわかったからです。
  このような場合、命名の国際的ルール(国際動物命名規約)では、古い方の学名を使うということになっています(一番大切なルールで「先取権」といいます)。
  Salmo mykiss  はワルバウムによって1792年に、 Salmo galrdneri  はリチヤードソンによって1836年にそれぞれ命名されたので、ニジマスの学名は Salmo mykiss ということになりました。さらに、属も最近、Salmo (タイセイヨウサケ属)から Oncorhynchus (サケ属)に移されたため、現在ニジマスの学名は Oncorhynchus mykiss が使われているわけです。
  このように属名が変わったり、種小名が変わったりと、魚の学名が変わることは時々あります。  資料館にも、「ニジマス(またはスチールヘッド)を輸入したら書類の学名が違うが何故か、種類が違うのか」というような質問が時々寄せられます。
  和名「ニジマス」は、明治時代にアメリカの河川から日本に持ち込まれたサケ科の魚(現地で rainbow trout (虹色の鱒)と呼ばれていたもの)に(直訳して)与えられたものです。

   
(付)和名の効用
  ニジマスでみたように、学名が変わっても(標準)和名が変わることは(ほとんど
**)ありません。また、変える必要もありません。「(標準)和名は学名にではなく、魚(の種)そのものに付いている」からです。 和名は私たち日本人にとって大変便利な名前といえます。
  もう1つ、マダイを例に説明します。オーストラリア・二ユージーランド近海には、マダイとそっくりなタイ科の魚  Pagrus auratus (ゴウシユウマダイという人もいます)が分布しています。
  築地魚市場でもよく見かける輸入魚の1つです。 日本の研究者はマダイ Pagrus major  とは違う魚(種)だと考えていますが、外国の一部の研究者は同じと考えています。
  もし、同じ魚だということになると(この見解に従うと)、先取権のルールにより、日本のマダイの学名は現在使われている  Pagrus major  から  Pagrus auratus  に変わります。
  しかし、だからといって、(標準)和名のマダイを変える必要はありません。

 * 
クロマグロのように世界中に広く分布している魚には、地方名と同じように、たくさんの学名(異名といいます)があります。
  18世紀以来、多くの研究者が自分たちが研究している「
クロマグロ」は、リネーの  thynnus  とは別種と考えたり、あるいはほかの海域のものとは別種と考えたりして、世界各地の「クロマグロ」を新種として発表した(新たに学名を付けた)からです(現代ではありえないことですが、かつてはほかの研究者が新種として発表したことを知らずに同じ種を新種として発表した研究者もいたようてす)(下の異名リストを参照)。
  現在では、岩井ほか(1965)やコレットとナウエン(1984)などのマグロ類の分類学的研究により、世界中の
クロマグロは1種で、学名は Thunnus thynnus (Linnaeus,1758)とするのが正しいとされています。
  ほとんどの研究者はこの見解に従っていますが、なかには、太平洋のクロマグロと大西洋のクロマグロは別種だと考える研究者もいます。
  この場合、大西洋の
クロマグロの学名は Thunnus orientalis (linnaeus,1758)、太平洋のクロマグロの学名は Thunnus orientalis ( Temminck & Schlegel,1844)になります。(学名の後ろは著者名と学名の公表された日付、2ぺ一ジ参照)このように、どの学名を使うかは厳密にいうと研究者の考え方によります。
  学名の間題などを扱うことの多い分類の論文であれぱ当然ですが、分類以外の論文やそのほかの出版物(図鑑など)で、ある魚に対してどの学名を使用するかということ(別のいい方をすると、誰の、どの分類学的研究の結果に従うかということ)は、それらの論文や出版物の著者の考え方によることになります。

 Thunns thynnus (Linnaeus,1758)の異名の一部(Collette & Nauen (1984)より)
 thynnus mediterraneus Risso,1826 ; Thynnus vulgaris Cuvier in Cuvier & Valenciennes,...以下略

** 「(ほとんど)ない」というのは、和名の付いた2種類が同じ種とみなされた場合、少なくともどちらかの和名は使用されないことになるからです。

                   
一4一

   
築地魚市場の魚の名前を調べ

  築地魚市場には毎日100種類をこえる魚が入荷しますが、その中にはお互いによく似ているため、区別の難しいものがあります。ここでは、日頃目にする機会の多い魚の中で得に混同されやすい魚の区別点を解説し、あわせて地方名と市場名を紹介します。

サバの仲間
  サバは世界に3種類います。日本近海に分布するのはこのうちの2種類です。全体的な形や色はよく似ていますが、体の模様で区別することが出来ます。

  背中の納模様は曲がり、ぼやけることもある。
腹部に斑点がない。
          
                 
和名タイセイヨウサバ
                 
学名Scomber scombrus
                 
市場名:サバ・ニシマサバ
                 
地方名


      背中の縞模様は曲がり、ぼやけることもある.
      腹部に斑点がない。
  
       
   和名マサバ
   学名Scomber japonicus
    市場名:サバ
   地方名:ヒラサバ


  背中の縞模様は曲がり、ぼやけることもある.
腹部に斑点がある。
   
           
                 
和名ゴママサバ
                 
学名Scomber australasicus
                 
市場名:ゴマサバ
                 
地方名:マルサバ

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  ハタの仲間
  ハタの仲間はたいへん種類が多く、国内だけでも約70種類が分布しています。そのうちのほとんどはマハタ属の魚です。
  同じ属の魚どうしでは、形や鰭条(ひれすじ)の数など数的な違いはあまりなく、区別に困ることがあります。しかし、模様は種類ごとに違っていることが多いので見分けるのに役立ちます。
  また八夕では、ある魚の標準和名がほかの魚の市場名であったり、あるいはこの逆があったりするので、注意が必要です。
注意: 魚は頭を上にして模様が縦か横かとなります。

マハタ
横の縞がある
和名マハタ
学名Epinephelus              septemfasclatus
市場名:ハタ
地方名:アラ




クエ


斜の結がある
和名クエ
学名Epinephelus bruneus
市場名:クエ
地方名:モロコ




  ホウキハタ
縦の縞があるホウキハタ
和名ホウキハタ
学名
Epinephelus morrhua
市場名:キジハタ
地方名:ハロ






キジハタ キジハタ
斑点がある
和名キジハタ
学名
Epineohelus akaaキジハタra
市場名:アズキハタ
地方名:アコウ

  



          一7一

  
カサゴの仲間
  カサゴの仲間は種類が多く、〜カサゴと名の付く魚は国内だけでも52種類います。ほとんどの種類が、全体的な形、頭や体のトゲ、赤みがかった体色など、同じような特徴をしているので、区別の難しいグループです。細かなトゲの有無、鰭条(ひれすじ)の数、体色の違いなどに注意してみましょう。

眼の上にトゲがある。アヤメカサゴ
体は橙黄色で、黄色い虫食い模様がある。

和名アヤメカサゴ
市場名:かさご
地方名
学名Sebastiscus albofasciatus




眼の上にトゲがない‘カサゴ
体は褐色、赤、暗色などで、淡色の斑点がある。

和名カサゴ
市場名
:かさご
地方名:あらかぶ、がしら
学名Sebastiscus marmoratus




眼の上にトゲがない。ウッカリカサゴ
体は赤みがかり、淡色の斑点がある。

和名ウッカリカサゴ
市場名:かさご
地方名
学名Sebastiscus tertius



 カサゴによく似た魚

       
和名
ユメカサゴ               和名イズカサゴ
市場名
:あらかぶ               市場名:


和名オニカサゴ
市場名:おにかさご


                      オニカサゴ
                        一8一


============= 築地魚市場おさかな二ユース ===========

  夏ガキ
  日本で食用にされているカキのほとんどは、養殖のマガキです。
  マガキの旬は秋から冬で、築地魚市場でも例年10月から翌年の3月まで殻付きと剥(む)き身のカキ(剥きガキ)がたくさん入荷します。
  マガキは5〜9月に産卵期となり卵巣が発達します。
  そのため、夏場は傷みやすく身も痩せている(水ガキと呼ばれる)ので、広く流通することはありませんでした。ところが1995年ごろから、夏場でも食ぺられるカキが入荷するようになりました。   市場などでは「夏ガキ」の名で呼ばれています。 「夏ガキ」は当初、能登や富山などから入荷したイワガキ(ほとんどが天然)でした。 年を追うごとに入荷量が増え、産地も広がりました。
  また、これまで夏場にはなかったマガキも殻付きで入荷するようになりました。 グラフは東京都中央卸売市場での殻付きカキの月別、年別入荷量です。
 1994年以前は3〜9月の入荷が全くありませんでしたが1995年から年々増加しているのがわかります。 しかし、都の集計ではマガキとイワガキを区別していないので、種類別の入荷の傾向はわかりません。
  そこで、当館が行っている毎朝の場内巡回時に付けた記録をまとめました。 イワガキの入荷に伴ってマガキも夏場に入荷するようになった傾向が見られます。
  なお、剥きガキは、マガキだけが使われていて5〜9月の入荷はほとんどありません。
  では、なぜ「夏ガキ」は夏場でも食べられるのでしようか。 イワガキとマガキは産卵期が異なるからといわれたこともありましたが、最近の講査から産卵期はほぼ同じことがわかってきました。 カキが成熟するためには一定の水温が必要です。 そのため水温が高けれぱ早く成熟し、低ければ成熟が遅れます。
  カキは日本各地に分布しています。 九州と東北地方、内湾と外海ではかなり温度差があります。 つまり、産地によってカキの成熟にばらつきがあることになります。 一般にマガキの養殖が行われている内湾は水温が高いので、カキの成熟は早いと思われます。
  反対にイワガキのすむ岩場は潮通しがよく水温がやや低いので、成熟も遅れると思われます。  このため普通の養殖マガキの出荷が終わった後でも、天然のイワガキや水温の低いところで養殖されたマガキが食用として出荷されていると思われます。
  カキによる食中毒を防ぐために、各地の水産試験場や出荷団体などでは出荷前に有害成分などの検査をしています。
  また消責期限、生食・加熱用の別、保存温度、漁場、加工場所と加工者が明記されています。
  なお、東京都ではカキを販売する業者の届け出を義務付けています。


 
築地魚市場のマガキとイワガキの入荷状況
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年/月     1  2  3  4  5  6  7  8  9  10 11 12
---------------------------------------------------------
1994マガキ  -  -  -            O         O  O  O
   
イワガキ -  -  -
1995マガキ O  O  O                     O  O  O
    イワガキ    ▲                        ▲   ▲ ▲
1996マガキ 0   O  O            O  O  O  O  O  O
    イワガキ          ▲  ▲  ▲  ▲  ▲  ▲  ▲
1997マガキ O  O  O  O  O  O  O  O  O  O  O  O
    イワガキ         ▲  ▲   ▲  ▲   ▲  ▲   ▲   ▲ ▲
1998マガキ 0  O        O  O  O  O  O  O  O  O
    イワガキ▲  ▲  ▲  ▲  ▲  ▲   ▲  ▲   ▲
1999マガキ O  O  O  O  O  O  O  O  O  O  O  O
    イワガキ▲  ▲     ▲  ▲   ▲  ▲  ▲  ▲ 
2000マガキ O  O        O  O  O  O
    イワガキ            ▲   ▲  ▲  ▲  ▲
2001マガキ O  O  O  O   O  O
    イワガキ          ▲  ▲  ▲
---------------------------------------------------------

                −9一マガキ


マガキ
:殻長20cm
Crassostrea gigas
分類:ウグイスガイ目 イタボガキ科
分布:日本各地、朝鮮半島、中国
生息場所:潮間帯、内湾の砂泥底・岩場
産卵期:5〜9月
漁獲方法:養殖(垂下、地まき)
主な産地:北海道、宮城、三重、広島

イワガキ
イワガキ:殻長20cm
Crassostrea nippona
分類:ウグイスガイ自 イタボガキ科
分布:青森県〜九州
生息場所:潮間帯〜水深20m、外海の岩場
産卵期:7〜8月
漁獲方法:天然採取
主な産地:山形、新潟、銚子、三重

参考資料
奥谷喬司編.2000.日本近海産貝類図鑑.東海大学出版会.
勢村 均.2000.イワガキに賭ける夢一特産化を目指して一.連絡ニユース,(388):2−3.
東京都中央卸売市場経営管理部業務課.2001.平成12年東京都中央卸売市場年報水産物編.
長澤和也・烏澤 雅(編).1991.漁業生物図鑑 北のさかなたち.北日本海洋センター.
吉沢良輪.2000.イワガキ増養殖試験.新潟県水産海洋研究所年報 平成10年度.p‐200−204.


  次回の展示テーマ
築地魚市場:魚の質問 2001年10月1日〜12月30日
 資料館には毎年500−700件の質問が寄せられます。 およそ7割が魚に関するものです。
 展示では、最近4年間の質問内容の紹介、魚の質問ベストテン、おもしろい質問などを関係する標本とともに紹介します。

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