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おさかな情報 No.8 1999年10月


1999年度 第3回展示テーマ 

    「 インド洋の魚 」
   
         シナマナガツオ Pampus chinensis  大きさ:30cm

     目     次
はじめに  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 
インド洋の漁業・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 
築地市場に入荷するインド洋の魚・ 3
「お魚かるた」・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
築地魚市場 おさかなニュース
キャビヤの代用品
・・・・・・・・・・・・・・ 6
次回の展示テーマ・・・・・・・・・・・・・ 10


  はじめに
 
  築地魚市場には世界中の海から魚が入荷します。インド洋やその周辺海域からの魚も少な くありません。 インド洋で大量に漁獲される魚はサバ類(マグロ類・グルクマ・カツオ・サ ワラ類など)・イワシ類(カタクチイワシ・マイワシの仲間など)・アジ類・夕チウオ類な どですが、市場には日本でもふつうに見られるマグロ類・フエダイ類・ハタ類・マナガツオ 類・タチウオ類などが鮮魚や冷凍魚として入荷します。
  展示では、市場で見られる様々なインド洋の魚を標本と共に紹介します。
今回は、最近復刻されたΓお魚かるた」も展示します。

 

               

  インド洋の漁業 

 インド洋の面積は(地図の51と57)約6000万平方キロメートルで、これはすべての海洋の16,6%にあたります(南極までの海域(58)を含めると約7200万平方キロメート ル、20%)。
  国連食糧農業機関(FAO)の最新の報告(1996年)によると、インド洋(黄海やペ ルシャ湾も含む) (51・57)の漁業生産は790万トンで、世界の漁業生産9463万トンの約 83%(海面漁業の約9%)です。 このうちインド洋に面している約40の国や地'域の漁獲量が93%で、残りの7%(約54万卜ン)は台湾・日本・韓国の漁船によるものです。 魚類が約700万トン(89%)、エビ・カニ・タコ・イカ類などが約90万トン(11%)です。 海域の面積で漁獲量を割った単位面積(1平方キロメートル)あたりの漁獲量は全海洋の平均では0.24卜ンですが、インド洋は0.13トンです。 日本とその周辺海域を含む北西太平洋が最大で1.21卜ン、北東大西洋では0.65トン、北西大西洋では0.39卜ンとなってい ます。 これらの海域と比ベるとインド洋はあまり漁業資源に恵まれていないといえます。           
 インド洋で大量に漁獲される魚類はサバ類(キハダ・コシナガ・メバチ・グルクマ・ カツオ・ヨコシマサワラ・タイワンサワラなど)・タチウオ類・イワシ類(カタクチイ ワシ・サッパ・マイワシの仲間など)です。
 平成9年度(1997年)、日本は世界中から341万トンの水産物を輸入しました。この 3.6%にあたる約12万卜ンがインド洋に面した国々からのものです。約12万トンのうち、約l0万トンはエビ・イカ・タコ類で、残りの約2万トンが魚でした。 魚では、イ卜ヨリダイ類(主にすり身)(2905トン)・キハダ(2904卜ン)・タチウオ類(2212卜ン)・ メバチ(1780卜ン)・ニベ類(1314トン)が主なものです。


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 築地に入荷するインド洋の魚

  築地魚市場にもインド洋沿岸各国から冷凍魚、鮮魚が入荷します。 しかし、「どの国からどのくらいの魚が入荷しているかは統計がなく、具体的な数量はわかりません。 また、水産物貿易統計でインド洋沿岸国からの輸入で上位を占めるイトヨリ類やニベ類などがほとんどみられないことから、貿易統計から築地への入荷を推察することも困難です。 そこで、ここでは、仲卸の店頭に並ぶインド洋の魚類を、その種類や産地などを中心に紹介します。

タチウオ類
 タチウオ類はマナガツオ類とともに入荷の多い魚です。 インド洋には約7種類のタチウオが分布しますが、お互いに姿形が似ているため分類が難しく、研究者によって種類数が異なることもあります。 そのため築地魚市場に入荷するタチウオ類に何種類含まれているのかはっきりしません。 インドやパキスタンなどから生鮮、冷凍でほぼ通年入荷します。

  
マナガツオ類
  タチウオ類と同じくインドやパキスタンな どから鮮魚、冷凍で入荷します。 尾鰭先端のまるいシナマナガツオと尾鰭先端が長く尖っているマナガツオの2種類があります。 最近ではインド洋のマナガツオは日本近海のも のとは別種ではないかと考えられており、現在研究が進められています。
       
ハ夕類
  ハタ類は温暖海域に種類が多く、インド・ 太平洋には約110種類も分布しています。 イ ンド洋のハタ類は、西部太平洋と共通の種類が多いのですが、なかにはインド洋にだけ分布するものもいます。築地魚市場にはインド、パキスタン、オマーンなどからオオスジハタ、カスリハ夕、スパイニーチークグルー バー、マスタシェグルーバーなどが鮮魚で入荷します。 入荷する時期は決まってはいないようですが、秋から春にかけてよく見かけます。
      
フエダイ類
  フエダイ類もインド・太平洋の温暖海域に多くの種類がみられます。 沿岸性のフエダイ類のほか沖合の深場にすむハマダイ(おなが)やアオダイ、ヒメダイ(おご)などが鮮魚で入荷します。 また、体が赤いフエダイ類のフィレが冷凍で入荷します(フエダイのうち赤い種類は多く、頭や鰭のないフィレで種類を特定するのは困難です)。 スリランカやパキスタンからキビレフエダイやクリムゾンスナッバーが鮮魚で入荷しますがあまり多く ありません。ハマダイやハチジョウアカムツもインドネシアなどから鮮魚で入荷します が、インド洋のものかどうかはっきりしません。
        

ミナミマグロ(いんどまぐろ)
 ミナミマグロは、南半球の主に南緯30°以南に分布しておりインド沿岸にはみられません。 平成10年には1160トンの入荷がありましたが、その多くはインドネシアやオーストラリアからのものです。 オーストラリアでは、沿岸で漁獲される小型のもを海上の大きな生け賛に入れ、餌を与え、太らせてから出荷することもしています。 
      
ハモ類
 インド洋には日本にも分布するハモとスズハモを含む4種類のハモ類が分布しています。築地魚市場には、パキスタンなどから生鮮・冷凍で入荷しますが、種類の区別をしていないので何種類のハモが入荷しているかはっきりしません。 最近では少ないようです。
      
カレイ・ヒラメ類
 インド洋には私たちになじみのあるカレイ (カレイ科カレイ亜科の魚)とヒラメ(ヒラメ科ヒラメ属の魚)は分布しません。 築地魚市場に入荷するのはボウズガレイ科のポウズガレイとウシノシタ科(シ夕ビラメ類)の一種です。 ボウズガレイはパキスタンから鮮魚で入荷します。 ほかのカレイ・ヒラメ類より肉厚で比較的評判が良かったようですが入荷は不定期です。 シタビラメ類では40cmを越える大型の種類がパキスタンから鮮魚で入荷したほか、ベンガル湾のオオクロウシノシタが冷凍で入荷したことがあります。いずれも数は少なく不定期のようです。
       
そのほかの魚
 キントキダイ類、コノシ口を大きくしたようなトリシェードなども鮮魚で入荷します。 卜リシェードは現地では食用魚として重要で、かなりの量が漁獲されていますが、日本ではなじみがなく定着しませんでした。
       

参考資料
Allen,G.R. 1985.FAO species catalogue Vol.6.Snappers ob the world.FAO.
Fischer,W.&G.Bianchi eds.1984.FAO species identificatin sheets for fishery purposes. Western lndian Ocean.FAO.
久新健-郎・尼岡邦夫・仲谷-宏・井田 斉.1977.インド洋の魚類.海洋水産資源開発センター.
Nakamura I.& N.V.Parin.1993.FAO species catalogue Vol.15.Snake mackerels and cutlassfishes of the world.FAO.
Randall,J.E.1995.Coastal fishes of Oman.Crawford House Publishing.



 お魚かるた

    ◎ みしまおこぜと 睨 (にら)めっこ
   ◎ 平目 (ひらめ) は左に目が二つ
   ◎ むろ鯵 (あじ) 干 (ほ) して クサヤの干物 (ひもの)
   ◎ 小さい鯵 (あじ) にも 怖い鰊 (こわいとげ)
   ◎ 我家 (わがや) と思ひ (おもい) 蛸の壷 (たこのつぼ)


  8月1日、魚市場関係者の間で「幻のかるた」と呼ばれていたΓお魚かるた」 (昭和12 年制作)がよみがえりました。 昨年、仲卸の方のタンスから1セットだけ発見され、このたび復刻されました。
Γ四季折々の魚を捉(とら)えて明るいユーモラスな文体でその特徴を述べ、それぞれの個性を機知(きち)に富んだ表現で描いた…」 (奥野かるた店パンフレット"畏友 長谷川秀雄氏の「お魚かるた」を推す" (中央魚類株式会社 顧問 加藤弘)より)大変ユニークなΓかるた」です。 幅広い話題が取り上げられているうえ、分かりやすく表現され ているので、楽しみながら魚についての知識が得られるようになっています。
このΓかるた」は、当時東京魚市場株式会社企画部に勤務していた長谷川秀雄氏によって、絵札・読み札とも書かれました。 様々な話題で魚への興味をもたせる内容になっているのは、 Γ(このΓかるた」が)…昭和12年(1937年)秋、単一卸売会社として発足した 東京魚市場株式会社が市民ヘのアプローチを図るとともに、魚食普及の宣伝をかねて制作 ・発行したもの…」 ("幻のΓお魚かるた」復刻について" (築地・仲卸 石田謙司)より)だからです。
 48組の絵札と読み札には、卜-チカ・兵隊・征途(せいと、出征のこと)など戦時色の濃いものもあります。 魚市場も戦争と無関係ではなかったことを、わたしたちはΓお魚かるた」から魚の知識と同時に伺い知ることができます。


Γお魚かるた」についての問い合わせはΓ銀鱗会」まで(FAX 03‐3541‐7194)。





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----------築地魚市場おさかなニュース-----------

 キャビヤの代用品

  高級な食材としてよく知られている「キャビア」はチョウザメ類の卵の塩蔵品です。 チヨウザメ類は北半球に分布する硬骨魚類 * で、現在24種類が知られています。 このうち、カスピ海及びその周辺に生息するベルーガ ** Huso huso、ルースキー・オショートル ** Acipenser gueldenstaedtii、セヴリューガ ** Acipenser stellatus の3種類の卵が「キャビア」の材料として 特に重要です。 なかでもベルーガのものが珍重され、最も高価に取引されています。主にロシアやイランなどカスピ海沿岸諸国から輸入されます(表1)。 最近では中国からも(アムール川などのチョウザメ類のものと思われます) Γキャビア」が輸入されています。

* サメやエイのような軟骨魚類ではありません。体がサメに似ていて、鱗(うろこ)がチヨウが並んで飛んでいるよう見えることからチョウザメと呼ばれます。
** ロシア名(高、1984)

   



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  表1.  キャビアおよびその代用品の
      輸入量と価格
 (平成9年水産貿易統計より)
 ( 注意  PDFファイル )

   (このファイルを開くのにPDF閲覧ソフトが必要です。)

(こちらから無償にてアクロバットリーダー(バージョン8.1)というソフトウェアをダウンロードすることができますので、手順に従いダウンロードしてからご覧ください。)

  

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  「キャビア」は高価なため、本物をはるかに上回る量の代用品が出回っています。 そのほとんどは北大西洋のダンゴウオ科の一種のランプフィッシュ Cyclopterus lumpus (かって故阿部宗明博士はヨコヅナダンゴウオと命名しました。)の卵を加工したものです。 北大西洋沿岸のヨーロッパ各国から輸入されますが、デンマークからのものが中心です。 水産貿易統計では「キャビア」と代用品が区別されていないため、輸入量ではデンマークがほかの国を圧倒しています(表1)。 しかし、金額でみるとデンマークはロシア・イランどころか中国にも及ぴません(表2)。 ランプフィッシュの卵を使った代用品がΓキャビア」に比ベてはるかに安いことがわかります。
  ところで、食品や食材関係の図鑑のなかに、ランプフィッシュをΓホウボウ科の一種」と解説しているものがあります。 同じカサゴ目の仲間とはいえ、ダンゴウオ科とホウボウ科が同じ科にまとめられたことはこれまで一度もありません。 これは明らかに誤りです。 なぜこのようなことになったのか、その原因を調べていくうちに、一部の英和辞書にΓLumpfish (ランプフィッシュ) (北大西洋産の)ホウボウの類」というものがあることがわかりました。 誤りの原因はこのあたりにあるのかもしれません。ランプフィッシュ
  
ランプフィッシュ (ヨコズナダンゴウオ)
   Cyclopterus lumpus
  分布 : 北大西洋沿岸  大きさ : 61cm

  ランプフィッシュのほかにサケ科・卜ビウオ科・コイ科・タラ科・ニシン科・ホウボウ科魚類などの卵も加工されて「キャビア」の代用品として出回りているようです。食品衛生法 (昭和44年9月6日環食第8870 号Γキャビアの保管について」)には、Γわが国には、西 ドイツ、デンマーク、スエーデ ン、オランダ、ソ連、米国等から種々のキャビアが輸入されて いるが、蝶鮫(ちょうざめ)、 ホウボウ等の卵を塩漬けし、 …」とあります。輸入量から判断して、これは明らかにΓ…蝶鮫、ランプフィッシュ等…」と すベきであったと思われます。


  参考資料
Nelson, J.S.1094.Fishes of thc world. 3rd. John Wiley & Sons. Inc. New York.
水産庁水産流通課.1998.水産貿易統計 平成9年1月~12月.
高 昭宏.1984.ソ連の水産研究I チョウザメ(上).水産の研究3(3):53-57
高 昭宏.1984.ソ連の水産研究 チョウザメ(下).水産の研究,3(4):54-59.


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  次回の展示テーマ

 
「マグロ」
2001年1月5日〜3月31日
 
2000年1月5日~3月31日 マグロは築地魚市場を代表する魚です。. 1998年の入荷量は約74000卜ンで、これは魚市場の全取引量の約1割にあたります。
日本人との関係も古く、縄文時代の遺跡からマグロの骨が出土します。
展示では、マグロの種類・生態・体のつくり・日本人とマグロの関係などを紹介します。
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