04
おさかな情報 No.4 1998年10月

1998年度 第2回展示テーマ 
    「 伊豆諸島の魚 」

   はじめに.....................1
   伊豆諸島で見られる魚の特徴.......2
   築地魚市場で見られる伊豆諸島の魚..4
   「江戸時代に描かれた伊豆諸島の魚」..7
   築地魚市場おさかな二ュース
      ”斑点のある”スズキ..........8
   次回の展示テーマ


イサキ
       カツオ              イサキ
キンメ
       ハマダイ(オナガ)         キンメダイ

はじめに

 黒潮の流れる伊豆諸島は、トビウオ類・カンパチ・ムロアジ類などの回遊魚のほか、タカベ・イサキ・メジナなど岩礁性の魚の絶好の漁場となっています。これらの魚の多くは築地魚市場に出荷され、「七島物」として市場関係者に喜ばれています。魚市場と伊豆諸島の関係は古く、日本各地の産物をまとめた江戸時代の書物にもシマアジ・カンパチ・ブダイ・イスズミなど20種類以上の伊豆諸島の魚が描かれています。
今回は、伊豆諸島を特徴づける魚の種類やハマダイ・トビウオ類・アオダイなど代表的な魚を紹介します。

                   オオメナツトビ(Abe、1956より)
      −‐1−‐




 
伊豆諸島で見られる魚の特徴

 伊豆諸島は火山活動によりできた島です。そのため海底の傾斜は急で、大部分は岩礁からなっています。沿岸は温暖な黒潮に洗われています。伊豆大島や新島は北部に位置し、黒潮流域の内側にあるため、冬季に冷水塊の影響により水温が低下することがあります。一方南部に位置する八丈島や青ケ島は黒潮流域の外側になるため一年を通じて温暖です。このような環境のため、伊豆諸島で見られる魚は、外海に面した岩礁を好むものがほとんどで、内湾や砂底を好むものが少なくなっています。北部でほ相模湾内の海流の影響もあり、伊豆半島や三浦半島と共通の魚が多く見られます。伊豆大島からは約220種類が知られています。南部では小笠原と共通の熱帯性の魚が多く見られるようになり、八丈島からは約480種が知られています。中間に位置する式根島からは128種、神津島94種、三宅島122種となっています。しかし、これらの海域では十分調査が行われておらず、今後の調査によって伊豆諸島の特徴が明らかになることが期待されます。

参考資料
古瀬浩史・瀬能 宏・加藤昌一・菊池 健・1996.魚類写真資料データベース(XPM‐NR)に登録された水週写責に基づく八丈島産魚類目録.神奈川自然誌資料,(17):49-62. 倉田洋二・中川政男:1960.三宅島の魚類相.三宅島水産開発事業報告(II)・東京都水産試験場調査研究要報,(30):21-31. 林 公義・伊東 純.1970.神津島に見られる魚類と海岸動物について;横須賀市博物館雑報,(15):17-23. 鳥羽水族館研究室.1961.伊豆・式根島海洋生物調査報告書・島羽水族館研究室.1965.伊豆式根島のタイドプールとその魚類についてPp‐61-67.鳥羽水族棺10年のあゆみ.鳥羽水族館・ 堤 清樹.1988.大島周辺海域の魚類相についてPp‐104-121.大島・海のぷるさと村ビジターセンター基本計画調査報告書:東京都大島公園事務所・




  
一2−


 
伊豆諸島と周辺海域における
           代表的魚類の比較

                      ◎...
多く見られるもの
                      ○...
分布しているもの

項目 魚種    三浦半島 伊豆半島 伊豆大島 三宅島 八丈島 小笠原
水温         14〜25   12〜24   14〜25   22.5  17〜28  19〜27
黒潮流域、      内側    内側    内側   本流域  外側  外側
地形          岩・砂   岩・砂   岩礁   岩礁   岩礁  岩・サンゴ
記録種数       330    615   300    122   482  801

主な魚 ウツボ     ○     ◎     ◎     ◎     ◎
     カサゴ     ○     ○     ◎     ○     ◎
     メバル     ◎     ◎     ○
     アイナメ    ◎     ○
     アカハタ    ◎     ◎     ◎     ◎     ◎
  キンギョハナダイ        ◎     ○             ◎     ○
     ネンブツダイ ◎     ○     ◎
     ムツ      ○     ○     ◎     ○
     タカベ            ◎     ◎     ◎     ◎     ○
     イサキ      ○     ○     ◎           ○
     ノコギリダイ                            ○     ◎
     オジサン          ◎     ○           ◎     ◎
   ミナミハタンポ         ◎     ◎     ○     ◎
     メジナ     ◎     ○     ◎     ◎     ◎
     イスズミ           ○     ○     ○     ◎     ○
  カガミチョウチョウウオ                        ◎     ○
  チョウチョウウオ  ○     ◎     ○     ○     ◎     ○
     ユウゼン                             ◎     ◎
    レンテンヤッコ                           ◎     ◎
     イシダイ    ○     ○     ◎     ◎     ○     ○
    イシガキダイ          ○     ○     ○     ◎     ○
  キホシスズメダイ                           ◎     ◎
     スズメダイ  ○     ◎     ○            ○
     ボラ       ◎     ○     ○                  ○
   オハグロベラ   ○     ◎     ◎
     二シキベラ  ◎     ○     ◎     ○     ◎     ○
     キュウセン  ◎     ◎     ◎
    ヤマブキペラ                            ◎     ◎
     ブダイ     ○                  ◎     ◎     ○
     二ザダイ   ○     ◎     ◎     ◎     ◎
     シマハギ                             ◎     ◎
    ウマヅラハギ ○     ◎     ○
     キタマクラ  ○     ◎     ◎      ○     ◎
     クサフグ   ◎     ○     ○            ○

   
−‐3一‐


 
築地魚市場で見られる伊豆諸島の魚

 先にふれたように伊豆諸島近海は、暖流の影響を受け地形は岩礁が多いため、暖流性魚類の好漁場となっています。その主なものは、
カツオ・ムロアジ・トビウオ・カンパチ・ヒラマサなどの回遊性魚類、タカベ・イサキ・メジナなど岩礁性魚類、メダイ・ムツ・キンメダイ・アオダイ・ハマダイなど深海性魚類です。魚以外ではテングサトサカノリ、サザエイセエビなどの磯根資源、イカ類が多く水揚げされます。平成8年における地元漁船の漁獲量はおよそ3900トンでした。しかし、これ以外にもこの海域では、東北から九州までの他県の漁船が操業しており、正確な水揚量はわかりません。ここ5年間では、カツオやムロアジなど回遊性魚類と海藻がやや滅少傾向にあります。
伊豆諸島の魚は「七島物」あるいは「島の魚」として築地魚市場でも親しまれています。伊豆諸島で漁獲された魚は船で直接築地まで運ばれます。築地魚市場への入荷量は正確にはわかりませんが、市場年報から推測すると
1500トンは下らないと思われます。これは築地に入荷する鮮魚の約1%に相当します。ここでは、築地魚市場で見られる代表的な伊豆諸島の魚を取り上げます。


 カツオ

 カツオは世界中の熱帯から温帯海域に広く分布します。日本近海では、餌を求めて東北沖まで北上するため(索餌回遊)、春(初ガツオ〉と秋(戻りガツオ)に多く漁獲されます。伊豆諸島はこの索餌回遊の経路に当たるため、好漁場の一つとなっています。主な漁法はひき縄釣です。大島では5〜6月と10〜11月、八丈島では2〜6月と10〜12月に多く漁獲されます。築地魚市場に入荷するカツオの約1割が伊豆諸島からのものです。



 タカベ

 背中から尾鰭にかけて黄色いタカベは夏の代表的な魚です。本州中部から九州に分布し、伊豆諸島では多くみられます。岩礁地帯に群れをなして生息し、動物プランクトンを食べます。主な漁法は刺網です。大島から三宅島の近海では、5月から
11月に漁獲されます。築地魚市場には、紀伊半島や九州からも入荷しますが、伊豆諸島からのものが7割を占めます。夏、神津島から入荷するものは一種の風物詩となっています。なお築地魚市場で「おきたかベ」と呼ばれるウメイロは、タカベ科ではなくアオダイなどと同じフエダイ科です。



 メダイ

 メダイはイボダイ科の魚で北海道から東シナ海に分布します。稚魚は流れ藻などに付いて海面近くにいますが成長するにつれ水深200〜500mの深場に移ります。主な漁法は底魚一本釣です。深海性の魚なのでほぽl年を通じて漁獲されます。築地魚市場に入荷するメダイ(国内産)のおよそ1割が伊豆諸島のものです。

   一一4一一



 キンメダイ
        
 キンメダイは世界中の温帯から熱帯の水深2∞m以深に広く分布します。中でも伊豆諸島近海は好漁場の一つとなっています。主な漁法は底魚一本釣で、メダイ同様1年中漁獲されます。伊豆諸島近海には、他県の漁船も出漁しており詳しい漁獲状況はわかりません。しかし、築地魚市場には紀伊半島や屋久島からも入荷しますが、房総や伊豆半島を含めた海域のものが最も多いようで、東京、千葉、神奈川、静岡からの入荷量を合わせると、およそ8割がこの海域で漁獲されているようです。



 イサキ

  タカベと同じく夏の魚であるイサキは、関東・新潟以南、南西諸島をのぞく南シナ海までの岩礁や藻場に分布します。とくに伊豆諸島を含む静岡県から宮崎までと、石川県から長崎県にいたる黒潮流域には多くみられます。主な漁法は定置綱や刺網です。伊豆諸島での漁獲のほとんどは大島近海で、三宅島や八丈島ではあまり採れません。一年を通して水揚げされますが、5月から11月が主な漁期です。築地魚市場に入荷するイサキのおよそ7%が伊豆諸島のものです。




 ハマダイ(おなが)

 一般には「おなが、おながだい」と言った方が通りのよいハマダイは、アオダイなどと同じフエダイ科の魚です。相模湾以南、インド・中部太平洋の水深100mから600mの岩礁に分布します。キンメダイやメダイとともに底魚一本釣で漁獲されます。八丈島近海に多く、三宅島や大島では少なくなっています。ほぼ一年中漁獲されますが、漁船の関係かもしれませんが3月から5月のカツオ釣シーズンは少なくなっています。築地魚市場に入荷するハマダイは、屋久島、小笠原、伊豆諸島が主要な産地になっているようです。


 トビウオ類

 日本近海には約30種のトビウオが分布していますが、伊豆諸島で重要なものはハマトビウオ・トビウオ・ホソトビウオ・才オメナツトビ・アヤトビウオなどです。トビウオ類のほとんどは温暖海域の海面近くを遊泳しています。したがって、黒潮の流域に当たる伊豆諸島はトビウオの好漁場となっています。主な漁法は流巻網や流刺網です。各島で水揚げがありますが、八丈島がもっとも多くなっています。漁期は4月から11月です。季節によってトビウオの種類が異なり、春は大型のハマトビウオ、夏にはアカトビウオやトビウオが漁獲されます。平成8年には222トンの水揚げがありましたが、そのうち築地魚市場に入荷したのは40%にすぎませんでした。これは、トビウオが伊豆諸島に独特な千物である「くさや」の材料として使われているためてす。

  
−‐5一‐



 アオダイ


  アオダイは相模湾から九州南部までの水深100m以深の岩礁に生息しています。漁法は底魚一本釣で、ほぼ通年漁獲されますが、6月から10月に多く水揚げされます。漁獲量は神津島、三宅島、八丈島と南に行くほど多くなっていますが、北の大島や南の小笠原近海ではあまり採れません。築地魚市場に入荷するアオダイの半分が、伊豆諸島のものと思われます。アオダイは1934年に新種として学会に発表されましたが、そのとき元となった標本は八丈島でとれたものでした。



ムツ
 ムツ

  築地魚市場では、アカムツなどに対して黒または褐色のムツを「くろむつ」と呼んでいますが、この「くろむつ」の中には、ムツとクロムツの2種類が含まれています。両種とも北海道南部以南、本州中部太平洋側まで、ムツはさらに東シナ海まで分布しています。生態もほとんど同じで、幼魚のうちは沿岸の表層にいますが、成長するに従い水深200mから700mの岩礁に移ります。漁法は底魚一本釣で、ほぽ通年漁獲されますが、夏場はやや少なくなっています。神津島での水揚げが多く、大島、新島が続いています。築地魚市場に入荷するムツのうち18%が伊豆諸島からのものと思われます。


 ムロアジ

 トビウオ同様伊豆諸島を代表する魚です。日本近海には、ムロアジの仲間は7種額分布しています。そのうち伊豆諸島で重要なのは、トビウオとともに「くさや」に使われるモロ・クサヤモロ・オアカムロの3種類です。どれも相模湾付近からインド・太平洋の温暖海域に分布しており、黒潮流域の伊豆諸島には多くみられます。漁法は棒受網や刺網などで、7月から12月に漁獲されます。八丈島がもっとも多く、新島、三宅島が続いています。築地魚市場の年問入荷量を上回る漁獲がありますが、ほとんどは島内での加工に回され、鮮魚として出荷されるのはごくわずかです。築地でも伊豆諸島のムロアジを見かける機会はあまりありません。
         ムロアジ


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

-----------------築地魚市場おさかなニュース---------------

 
班点のあるスズキ

  最近、魚市場で体にはっきりした黒い斑点がたくさんあるスズキをよく見かけるようになりました。これは、中国沿岸でとれたものか中国産を養殖したもので、はっきりした斑点のあること以外は日本のスズキとそっくりです。日本産のスズキにも全長25−30cmぐらいまでは黒い斑点をもつものもいますが、大きくなると黒い斑点はなくなります。最近の研究で、日本産のスズキと中国産のスズキは別の種類だということがわかりました。しかし、まだ正式な学名は付けられていません
*。現在、学術雑誌・図鑑では中国沿岸のスズキは「タイリク(大陸)スズキ」と呼ばれています。 瀬戸内海など四国周辺海域では、「ホシ(星)スズキ」と呼ばれる斑点のあるスズキが釣れることが知られています。これは、養殖用の種苗として中国や台湾から持ち込まれたものが生け貧から逃げ出したものです。

*まだ決まっていない、というのが正確かもしれません。それは、これまでスズキLateolabrax japonicus の異名とされていた学名のなかに「タイリクスズキ」にあたるものがあるかもしれないからです。現在、日本の魚類学者が研究中です。
      
スズキ
スズキ
 分布:北海道南部以南の日本各地沿岸、朝鮮半島南岸



     
タイリクスズキ
                           (週間釣りサンデー「新さかな大図鑑」(1995)より)
タイリクスズキ
 分布:渤海、黄海、東シナ海中国大陸沿岸、北部南シナ海中国大陸沿岸


参考資料
小西英人(編).1995.新さかな大図鑑・週間釣りサンデー,大阪..559pp・



  次回の展示テーマ
 
「鯛と日本人」
 日本を代表する魚である鯛は日本人が最も古くから食用とした魚の1つです。縄文時代の遺跡から骨が出土したり、日本最古の歴史書である「古事記」にも‘赤魚”として記録されています。展示では、日本人と鯛の関係や築地魚市場に入荷する日本と世界各地の様々な鯛を紹介します。


   −8一