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おさかな情報 No.3 1998年7月

1998年度 第2回展示テーマ 
    「 魚のからだつくり 」
  
   
                マダイ
                  ハモ

 はじめに.......1      魚の形を考える.....2
 「ヒラメは縦扁形ではなく側扁形」..3  魚の背骨を考える....3   
 「タイのタイ」.....5   「タイのタイの標本の作り方」.5 
 築地魚市場おさかなニュース
  
「のれそれ」って何だろう?.7


はじめに

 私たち日本人が利用する魚は、その量だけでなく種類も豊富です。築地魚市場にも一年間 に300種以上の魚が入荷します。しかし、マグロ・タイ・ヒラメのように刺身などで日頃 なじみの深い魚でも、その体のつくりをじっくりみる機会はあまりないと思います。いろい ろな魚の形やつくりをみると、魚の体は生活の仕方、特に泳ぎ方に合わせてうまくできてい ることがわかります。 今回は、私たちがよく知っている魚の体のつくりを背骨に焦点をあてて紹介します。
                        
                             クロマグロ

                           骨格(中村、1994より)  

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魚の形を考える

 魚の体の形には、球形のもの、平たいもの、細長いものなどいろいろあります。体の形は生活の仕方、特に泳ぎ方と関係しています。ここでは、魚の形を紡錘形(ぼうすいけい)、側扁形:(そくへんけい)、縦扁形(じゆうへんけい)、ウナギ形、フグ形の5つに分けて紹介します。
              
                  ↑  側扁形(マダイ)
 ←→ 
 ウナギ形(ウツボ)     紡錘形(マグロ)    フグ形(ヒガンフグ)
                   ↓
                 縦扁形(マゴチ)

紡錘形(ぼうすいけい)
 水の低抗が少なく、速く泳ぐのに適した形です。広い海を活発に泳ぐ魚にみられます。代表的な魚はマグロ類、カツオ、ブリ、サメ類などです。よく知られているように、最も速く泳ぐ魚はマグロ類で、その時速は毎時60〜100kmといわれています。この仲間は、体が紡錘形をしているほかにも遠く泳ぐための工夫があります。速く泳ぐときには前のほうの背びれ、胸びれ、腹びれを体の表面にある溝やへこみにたたみこんで、水の抵抗をいっそう少なくします。また、長い間速く泳ぐために、体温を高く保つ工夫もあります。

側扁形(そくへんけい)
 紡錘形が背腹の方向に高くなり、左右の幅が薄くなった形です。この形は、キンメダイ、タイ類、スズメダイ類、チョウチョウウオ類など硬骨魚類ではごく普通にみられますが、サメやエイなど軟骨魚類ではみられません。側扁形の魚の多くは、急に動き出したり方向を変えるのがうまく、ふつう浅い海の岩場やサンゴ礁のような複雑な地形のところで生活しています。

縦扁形(じゆうへんけい)
 紡錘形が背腹の方向に平たくなり、左右の幅が広くなった形です。この形の魚はあまり速く泳ぐことはできません。エイ類、コチ、アンコウなどのように海底で生活する魚に多くみられます。底にいる時の体の安定がよいだけでなく、体の影ができないので、上からの敵に発見されにくく、底での生活に都合のよい形といえます。

          
一一2ーー

ウナギ形
 紡錘形を前後に引き延ばした形で、ウナギ類(ウナギ・マアナゴ・ウツボ・ハモほか)などにみられます。このような細長い形は、砂や泥の中にもぐる習性に合わせて発達したと思われます。くねくねと動くには、体を長くするだけでなく、たくさんの背骨も必要です。

フグ形
 紡錘形を前後に押しつぶした形で、卵形や球形のものです。代表はフグ類やフサアンコウです。この形の魚の動きは大変ゆっくりです。

参考資料:
岩井保.1985.水産脊椎動物.U.魚類.恒星社厚生閣.東京・388pp・
中坊徹次編.1993.日本産魚類検索.全種の同定.東海大学出版会.東京・]]]W+1477pp


       ヒラメは縦扁形ではなく側扁形

 両方の眼が体の片側にあるヒラメの仲間(ヒラメ・カレイ・ウシノシタなど)は、眼のない側を海底につけて生活しています。このため、この仲間は側扁形ではなく、縦扁形の魚と思われることがあります。しかし、その背骨の形をマダイ(側扁形)とコチ(縦扁形)のものと比べてみると、マダイのほうによく似ていてヒラメが側扁形であることがすぐにわかります。
 このことは、ヒラメの成長のようすをみるといっそうはっきりします。生まれてからしばらくの間は、ヒラメの眼も体の左右に1つずつあります。そして、ふつうの側扁形の魚の子供と同じように泳いでいます。そのうち、体の右側の眼が左側に向かって動き始めます。そして、両方の眼が左側にそろったころから、眼のない側を海底につけてコチやアンコウなどのような縦扁形の魚と同じ生活をするようになります。
 つまり、ヒラメは縦扁形の魚のような生活をする側扁形の魚ということになります。

         
                                  稚魚から成魚まで
参考資料
沖山宗雄扁、1988.白本産稚魚図鑑.東海大学出版会.東京.1157pp

魚の背骨(せぼね)を考える

 魚も私たち人間と同じ脊椎動物の仲間なので、背骨(脊椎骨、せきついこつ)が体の中心を走っています。その背骨をよく調べてみると、種類によってその形や数に違いがあることがわかります。この違いは体の形や泳ぎ方などに関係しています。いくつかの代表的な魚の背骨を紹介します。
              −−3ーー

クロマグロ
 マグロ類は大きな紡錘形の体に加えて、高速で泳ぐので、体を支える背骨は大変頑丈にできています。椎体(ついたい)、神経棘(しんけいきょく〉、血管棘(けっかんきょく)はそれぞれ大変大きくて丈夫です。また、この仲間の椎体をよくみると、それぞれの椎体の前後にある突起がよく発達していることがわかります。これは、となりの椎体どうしをしっか りとつなげて背骨をさらに頑丈にするための工夫です。マグロ類は体の後ろの部分を左右に振って泳ぐので、後ろの背骨はとなりどうし特にしっかりとつながっています。
      
                   
骨格(中村、1994より)  
マダイ
 体が側扁していて(背腹方向に〉高いので、神経棘や血管棘が長くなっています。マダイではマグロ類に比べて、となりどうしの推体のつながりは強くありません。これはマダイがマグロ類ほど速く泳がないことと関係していると思われます。
  

コチ 
 体が上から押しつぶされたような形なので、神経棘や血管棘が大変短くなっています。
    

ウナギ
 タイやスズキの仲間の背骨の数はふつう24から35ぐらいですが、ウナギの背骨の数は 100以上あります。これはウナギの泳ぎ方に関係しています。ウナギがウナギらしくくねくねと泳ぐためには、たくさんの背骨が必要というわけです。
  

トラフグ
 フグの仲間は体形だけでなく、背骨の形も非常に変わっています。背骨の数が少なく、神経棘や血管棘の幅が広くなっています。その理由はよくわかりませんが、モンガラカワハギ、カワハギ、ハコフグ、マンボウなどフグ類の進化では、いろいろな体のつくりがだんだん単純になっていくことが知られているので、背骨もほかの体のつくりと同じように単純になったのかもしれません。
        

参考資料 落合明扁.1994.魚類解剖大図鑑・図版編.緑書房.東京.266pp.
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            タイのタイ

 「タイのタイ」は、魚市場や料亭では昔からよく知られていましたが、一般にはあまり なじみがありませんでした。しかし、最近ではマスコミなどで取り上げられることが多く なり、すっかり有名になっています。江戸時代には
鯛中鯛(たいちゅうたい)つまり鯛の中のもう1匹の鯛と呼ばれていました。「タイのタイ」は胸びれの根本にある肩胛骨.(けんこうこつ)と烏口骨(うこうこつ) (肩帯(けんたい)すなわち”かま”の一部)を魚に見立てたものです。肩胛骨が頭で、神経が通る穴が眼ということになります。イワシには「イワシのイワシ」、ヒラメには「ヒラメのヒラメ」があります。それぞれの魚に似ているといわれていますが、これはちょっと怪しいようです。ところで、この「タイのタ イ」は魚なら何でもあるというものではありません。あるのは硬骨魚類だけで、サメやエイなど軟骨魚類にはありません。硬骨魚類といってもウツボのように胸びれの退化した魚にはありません。「タイのタイ」のコレクターはたくさんいるようで、大西彬氏のように小児科医でありながら「タイのタイ」という本を出版した人もいます。また、服飾評論家の石津謙介氏も「タイのタイ」のコレクターとして有名です。お金が貯まるということで財布の中に入れたり、着物が増えるというのでタンスにしまっておく人もいます。昔は船頭や鯛釣り漁師が神棚に祭ったりしていたようです。このように「タイのタイ」には不思議な力があると信じられています。ある週刊誌の見出しには”幸せの「タイのタイ」”とありまし た。「タイのタイ」をもっていると幸せになれるかどうかわかりませんが、「タイのタ イ」を探しながらきれいに魚を食べるときっと幸せな気分になれると思います。

 ウナギ     ナマズ      サンマ     タチウオ      ウマヅラハギ

参考資料
大西 彬.1991.鯛のタイ.草思社.東京.237pp 週刊朝日.1992年7月22日号.pp172-175.

     「タイのタイ」の標本の作り

 「タイのタイ」のような乾燥した骨の標本の作り方には、水や温水に潰ける、煮たり熱湯 をかけたりする、薬品を使うなど様々な方法があります。ここでは、排水パイプ用洗浄剤を使う簡単な方法を紹介します。

く用意するもの〉
排水パイプ用洗浄剤(今のところ、花王のパイプスルーが最も良いようです) 容器(小さいバケツなど) ピンセット(なければ、竹ぐし、つまようじ、歯ブラシなど) ビニール手袋     

く作り方> 鯛の鯛標本
(1)魚(生、煮付け、焼魚など)の胸びれの部分(”かま”)をはずす。 ピンセットでていねいに肉をとる。

(2)「タイのタイ」(肩岬骨(けんこうこつ) と烏口骨(うこうこつ))をはずす(「タ イのタイ」の記事を参考にしてください)。 2つの骨がはずれないように注意。ほかの骨がついていてもかまいません。あとで、はずせます。

(3)容器に30−40度ぐらいの湯を入れ、パイプスルーを溶かします。分量の自安は、 骨の大きさが5センチぐらいなら、600cc の湯にパイプスルー10グラムぐらい(パ イプスルーは25グラム入のスティック)。 この量は厳密なものではありません。骨を入れたら少し泡立つ程度と考えてください。

(4)簡単に水洗いして、新しいパイプスルーの液に潰けます。 ...きれいになるまで、(3)(4)をくりかえします。あまり何度もく りかえすと2つの骨がはずれます(たぶん、1、2回で大丈夫です)....

(5)きれいになったら、パイプスルーの液から骨を取り出して、容器の中でよく水洗いします。流水なら2〜3時間(少しずつ)、流水でなければ時々水を換えながら半日ぐらい。

(6)水洗いが終わったら、ぺ一パータオルで水分をとります。

(7)日陰で完全に乾燥させて完成です。

(8)プラスチック容器に入れ、防虫剤と共に入れ保存します。

〈注意など〉
 @排水パイプ用洗浄剤を使うときには必ずビニール手袋で。
 @もし2つの骨がはずれたら、(7)のあと接着剤でくっつけます。
 @排水パイプ用洗浄剤を使うと魚の臭いがとれると同時に漂白と除菌もできます。   

 @この方法は魚以外の動物の骨にも応用できます。

参考資料
伊藤恵夫.1992.排水パイプ用洗浄剤を利用した小動物骨格標本作成法.化石研究会会誌.25:43-44.
  
                
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      ーーーー 築地魚市場おさかなニュース ーーーー


    「のれそれ」ってなんだろう?

 毎年4月ごろになると、築地魚市場にも
「のれそれ」が顔を出しはじめます。6月ごろまではほとんど毎日のように入荷しますが、一般の魚屋に並ぶことは少ないので、見たことのない方も多いかもしれません。少し小さめのプラスチックケースに入れられた「のれそれ」は、白っぽく透きとおり、柔らかく、まるでクラゲのようです。しかし1匹づつよく見ると、柳の葉のような形をしており、頭と思われる所にはちゃんと眼もあります。今回は、この「のれそれ」について紹介します。

1.築地魚市場の「のれそれ」マアナゴの子供
 もう一度
「のれそれ」の体をよく見てみましょう。大きさは10cm前後。色はやや白っぽく透きとおっています。形は柳の葉のように細長く、左右からつぶしたように薄っぺらです。体には頭の後ろから尾にむかって1本の筋があり、それにそって小さな点(色素胞)と白いW型のすじ(筋飾)が連続しています。頭にはしっかりした眼と口があります。しかし、内臓や鰭といったようなものは、はっきりわかりません。さて、どんな動物の仲間なのでしょうか?
頭から出て体の真ん中を通っている1本の筋は、背骨です。背骨があり海の中を泳ぎまわっているのは魚です。つまり「のれそれ」は、魚の一種ということになります。体に色素がほとんどなく、内臓や鰭も未発達なのは、この魚がまだ子供だからです。では、いったい何の子供か。平たく細長い形から、タチウオやギンポの子供と言われることがあります。しかし、タチウオの子供は、4cmの大きさで背鰭が発達し顔つきも親とほとんど変わりません。また、ギンポは、4cmで体に色がつき、りっぱな尾鰭もあります。いずれも「のれそれ」とはまったく違います。本州沿岸でよくとれる
「のれそれ」は、13cm位になると体が縮みはじめ9cm位になってしまいます。逆に薄っぺらだった体の幅は徐々に厚みを増し、ついにその断面は円になります。その姿は透明であることを除けばマアナゴの形です。この「しらす」のようなマアナゴは、すぐに黒っぽくなり海底での生活をはじめます。つまり「のれそれ」は、マアナゴの子供なのです。
                   
全長3.9cm タチウオ
                  
全長4.1cm ギンポ
  全長10.9cm マアナゴ


       
一ー7ー一

2.「のれそれ」の生態
 「
のれそれ」は、正式にはレプトケパルス(葉形仔魚)と呼ばれます。このレプトケパルスは、ウナギの仲間(ウナギ、マアナゴ、ウツボ、ハモなど)とカライワシの仲間(イセゴイ、ギスなど)に独特な仔魚期の形です。マアナゴやウナギは、沿岸や河川に生息していますが、産卵期になると通常の住みかを離れ、遠い暖海で産卵します。はるか遠い海で生まれた仔魚たちは、自分たちの生息場所に戻ってくるために海流を利用しますが、そのとき役立つのがその体形です。薄っぺらな体は、潮の流れを捉え、薄い筋肉の内側にあるゼリー質は浮力をかせぐためと考えられています。そして沿岸にたどり着いた仔魚たちは変態し、ウナギやマアナゴとしての生活をはじめます。レプトケパルスの分類は大変むずかしく、まだどの種類の仔魚かわかっていないものがたくさんあります。しかし本州沿岸で多量に漁獲されるのは、親魚の分布や仔魚の体を詳しく調ぺてみると、ほとんどがマアナゴのようです。

3.
人とのかかわり
 「
のれそれ」は、かなり古くから人々の目についていたようですが、それがマアナゴの仔魚とわかったのは、比較的新しいことです。先に出てきたレプトケパルスという呼び名も、仔魚とわからず新種としてつけられた学名からきています。「のれそれ」という呼び名は、もともと高知県で使われていたものです。日本ではほかに「べらた(岡由)」、「たちくらげ(三崎)」、「ながたんくらげ(和歌山)」などの呼び名があります。どれも細長く、クラゲのようにぐにゃぐにゃした感じを言い表しているのではないでしょうか。関西では、古くから食材として利用していたようで、「のれそれ」や「べらた」という呼び名はよく耳にします。しかし、関東で利用し始めたのはここ10年ぐらいのようで、名前も高知の「のれそれ」が使われています。築地魚市場には、3〜4月ごろは愛知や静岡、5〜6月は常磐のしらす巻網で漁獲したものが入荷します。主に酢の物や碗種として食べられています。
               
全長6cm  ウナギ
           
全長7cm  ウツボ
       
                       
全長11cm  ハモ


参考資料
日本魚類学会編.1981.日本産魚名大辞典.三省堂.東京.[+834pp.沖山宗雄編.1988.日本産稚魚図鑑.東海大学出版会,東京.1157pp山田梅芳.1986.マアナゴ.Pages 68-69 in山田梅芳・田川 勝・岸田周三・本状廉至.東シナ海・黄海のさかな.水産庁西海区水産研究所,長崎・



    
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